2月9日(日)、茨城県つくば市にある日本最大の農業の研究機関、国立研究開発法人 農研機構を訪問しました。
今回の企画は、内閣府が推進する、2050年を目標に地球や人類の課題を科学技術により解決をめざす「ムーンショット目標」の目標5にある "食と農"に関する研究について、京都大学の日本 (ひのもと) 教授らから現状を伺い、学生との意見交換などを行うものです。その名も「"埼玉栄高校×ムーンショット5・日本 (ひのもと) プロジェクト"交流会」です。総合探究部では、これまでに子ども食堂やフードバンクの活動を通じて、食品ロスの問題に関わってきました。栽培から出荷までの過程の中で、約4割の作物が何かしらの理由で市場に出回らずに廃棄されています。その原因を科学技術で解決し、真のフードロスをなくそうというのがムーンショット目標5の中の1つです。
当日は牛久駅で集合し、バスで現地に向かいました。到着後、はじめに、担当の方から農研機構がこれまでに取り組んださまざまな農業に関する研究成果を教えてもらいました。スマート農業やゲノム編集など、言葉だけは知っているものもありましたが、実際の成果を目の当たりにすると、驚きと感動の連続でした。特に、1㎡あたりの収穫高を上げるために改良されたトマトの展示では、これまでに見たことのない量のトマトが一本の蔦に実っていました。
つづいて、会議室にて日本教授らから研究内容についてレクチャーしていただきました。日本教授からは、ムーンショット目標5に関する概要から2050年までに世界で起こる食の問題について教えていただきました。途上国では人口増加が続く中、生活水準も上がり、世界的な食糧需要が高まることで価格が高騰など、目に見える問題がすでに起きています。今後、より深刻化することが明確な中で、食糧生産のロスをなくす取り組みは日本だけでなく、国際的にも重要だと言えます。
世古上級研究員からは「天敵による害虫駆除」の研究について教えていただきました。害虫アザミウマの天敵であるタイリクヒメハナカメムシを活用して、害虫被害を減らすというものです。この方法は、運用面でいくつか問題があり、その一つが餌を見つけられない個体が別の畑へと移動してしまうというものでした。その結果、効果が安定して見込める化学薬品の農薬が一般化するのだそうです。そこで、タイリクヒメハナカメムシの餌探しの行動習性を育種によって「餌探しをあきらめない個体」として選別・交配し、天敵農薬の抱える問題点を解消しようというものでした。渋谷主任研究員からは「レーザーを用いた害虫狙撃技術の開発」について教えていただきました。害虫であるハスモンヨトウにブルーレーザーを照射し、瞬時に900度近い高熱で撃退するというものです。まず、害虫の居場所をとらえるためのカメラを導入し、正確に害虫の場所を捕らえるようにします。そして、レーザー照射までの間に虫が移動してしまうので、虫の行動を先読みできるようにデータを収集します。その後、実際に試作ビニールハウス内での実験を行い、レーザーを命中させることができたそうです。
部員たちは、どちらの研究も、途方もない労力が必要なものだと感じました。実用化までには多くの越えなければならない壁がありますが、世界の食糧生産を大きく変える可能性を秘めていることも実感できました。その後、部員たちからの質問に答えていただいたあと、最後に研究室を見学しました。世古研究員のタイリクヒメハナカメムシの飼育や行動研究については、実際の機材を見ながら説明を聞くこともできました。
今回の企画は、多くの方のご協力があり、実現することができました。
京都大学の日本教授、農研機構植物防疫研究部門基盤防除技術研究領域の植原さん、渋谷さん、世古さん、生物系特定産業技術研究支援センター(BRAIN) の宮田さん、足立さん、三上さん、内閣府科学技術・イノベーション推進事務局未来革新研究推進担当の黒井さん、本当にありがとうございました。今回の機会を通じて、他人事として知るだけで終わらず、ムーンショット目標が掲げる2050年にはその担い手の一人になるつもりで、今後のキャリア形成や学習に取り組んでいきたいと思います。
最後に、参加した部員たちの感想の一部をご紹介します。
【中学1年生 兼橋さんの感想】
本日はありがとうございました。興味深いお話ばかりで、とても楽しかったです。特に「すぐにあきらめない」個体を作る研究・レーザーを用いた害虫狙撃技術についてです。害虫駆除には農薬を使うことしか知りませんでした。しかし、天敵に手伝ってもらう・レーザーで害虫狙撃をすることも害虫駆除につながると分かりました。「すぐにあきらめない」個体の育成については、何分もかけてどの個体があきらめやすのが、あきらめにくいのかを見極め、あきらめにくい個体は歩行距離が短いということまで研究してあると知り驚きました。また、レーザーを用いた害虫狙撃技術については、わずか1秒のずれもないように計算し、命中率が7割もあったことに驚きました。これからの学習に活かしていけたら良いなと思いました。
【高校2年生 土方さんの感想】
私は日本の食料自給率の低さや世界情勢の不安定さを背景に、日本の食料供給を安定させ、海外に依存しない農業を実現したいと以前から考え、農学に興味がありました。これまで農薬は、人体や環境への影響のみを考慮して作られていると思っていましたが、それだけでなく、生産者の負担軽減も重視されていると知りました。生産者一人ひとりの作業負担を減らし、効率的な農業を実現することが重要だと理解しました。また、最新の研究を見学する貴重な体験を通じて、農業の未来について考えることができました。例えば、害虫駆除において天敵の歩行回数と定着率の相関を研究したり、レーザーで害虫を打ち落とす近未来的な方法が実現可能になる未来を想像できました。
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